ラ ブ レ タ ー





     「…お前が女だったらなあ…」

     喧騒の中、岩沢が呟くように言った。
     隣りで呑んでるヤツは、自分が零した言葉の意味なんて深く考えていないだろうけど。
     「今日暇なら付き合え!」と半ば無理やりセッティングされた、二人だけの酒の席。
     話を聞いてたら、なんとなく読めてきた。
     …多分、彼女と別れたんだな。
     しかも、「フラレタ」ってヤツだ。
     珍しく岩沢の方から誘ってきたから妙だな、とは思っていたんだよ。
     ただの愚痴こぼしの相手が欲しかっただけ、か。

     「そしたらなあ、上手くいくと思うんだけど…」

     呟きは、独白に近い。
     言った後で「ビール追加!」なんて叫んでるし。
     隣りに座っている俺のコト、ちゃんと認識してるか? と思ったら、赤い顔して「北川、呑んでるか?」と向き直  .
     られた。

     「うん」

     短く答えた俺に、満足そうに頷くと、まだジョッキに残ってたビールを飲み干す。
     …アレてんなあ。
     こんなに飲んで、こいつ明日大丈夫かね?

     「なんかなあ」
     「…うん?」
     「わかんねえな、女って」
     「…」
     「理解不能だ」

     言った後でため息をついている。
     …多分、彼女の方も岩沢のことが理解できていなかったんだろう、と思う。
     俺だって、まだまだ理解できなくて困ってるんだから。

     「だってな、遠まわしすぎて、スグわかんなかったもん」

     拗ねたような声がかわいくて、思わず笑ってしまった。
     子供みたいだ、なんか。
     いつもと違う雰囲気で困ってしまう位で。

     「俺にとっては、世間話の延長だったんだよ。でさ、出かけてから電話での会話をふと思い出したりしたら…、
     え? みたいな感じで」

     それ位、「別れの言葉」とは程遠い「別れ話」だったみたいですね。
     …きっと、さ。
     彼女はハッキリ言うのが嫌だったんだよ。
     『ハッキリとした別れ』の言葉を言いたくなくて。
     …君のことが好きだから。
     遠まわしな彼女の言い方に、なんとなく本心が見え隠れしている気がする。
     『もし、気付いてくれたら…… 』、そんな風に思っていたとしたら。
     そして、それでも自分の事を想ってくれていると、信じたかったのかもしれない。

     「岩沢はさ、恋愛にむかないタイプだよね」
     「うーん? そーかもなー、高校ん時も、そーいや、そんな理由で別れた事あったわ」

     こらこら、笑ってる場合じゃないでしょー?
     本気で俺は心配だよ。
     この人の「恋愛感情」の起伏のなさに。
     一体、どんな人間がコイツと大恋愛するのか知りたいもんです。
     っていうか、恋愛できるのかな?
     なんて余計な心配か。

     「お前はさ、恋愛にアツいタイプだよなー」

     考え込んでいた俺に岩沢が言った。
     何か思い出しているのか、くすくす笑ってる。

     「なに?」
     「中学ん時に、お前ラブレター書いたじゃん。アレ読ませてもらった時、マジ笑わせてもらったなあって」

     …ラブレター?
     ああ、そういえば書いたなあ。
     『君のことをずっと見ていました』…とかいうくだりのラブレターだったかな?
     そういえば初めて書いたモンだからって、あん時一緒にいた連中に見せたんだっけ。
     みんな、『いいじゃん』とか『こんなの貰ったら、女冥利に尽きるんじゃないか』なんて言ってくれて、喜んで
     いたのに。
     ただ一人、岩沢だけが他の連中と違う反応をしたんだ。
     なんて言ったんだっけ?
     『なんかくっさいなあ』なんて、胡散げに言ったんだよ、確か。
     『俺が女だったら、そんな手紙イヤだな』とも言ったな。

     「…思い出した。お前、きっついコト言ってくれたよなあ」
     「そうかな」
     「そうだよ」

     笑ってる岩沢を少し睨んでみる。
     …結局、フラレたんだよ、あん時。
     チキショー。

     「でもなあ…今思うと…」

     運ばれてきたジョッキを持ち上げつつ、岩沢が言う。

     「あれ貰った子、いいよなー」

     はい?
     やっぱり酔っ払ってますな、岩沢くん。

     「淋しい時には、グッとくるじゃん?」

     はは、と照れたように笑っている岩沢を。
     なんだか、俺は無性に抱きしめたくなり。
     初めて自分の胸の中に生まれた不思議な感情に気付いた。
     ここで、コイツの言うように俺が女だったり、反対に岩沢が女だったりしたら、この感情を『恋』と呼んでも不
     思議ではないのに。
     でも違うから。
     どちらかが女だったら、と思う前に。
     俺は、今のままの岩沢を知りたい、と思う。
     俺が俺のままで、岩沢のことをわかりたいんだ。
     わからないから、というのを別れの理由にするのなら、俺は「理解したい」という言葉を隣りで飲んでいる、実
     は少し傷心気味の相方に贈りたい。

     「岩沢」
     「ん?」
     「お前がさ、淋しい時も嬉しい時も俺が隣りにいるから」
     「…」

     岩沢は。
     最初、ただ俺を見ていて。
     返事を待っている俺に笑ってみせた。
     子供みたいな顔で。

     「…やっぱ、くさいなあ」

     その言葉で俺もまた笑った。
     少し苦笑気味で。
     岩沢の言った意味がわかったから。



     『君のことをずっと見ていました。君の笑っている顔を見ると嬉しくなります。そして、 その隣りに僕がいれた
     ら幸せなのにと思うようになり。君が淋しい時も隣りにいれたら、と思うのです。僕の知らなかった君のことを
     知りたい。君のことが好きだから』




     いつかのラブレター。
     …また書いてみようかな?
     その時は、貰ってくれますか、岩沢くん。
     なんてね。



       ゆず結成間もない頃の設定で。
       微妙に「方程式2」を意識しています。








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